技術解説 モータ制御回路の概要
モータ制御
モータ制御回路の概要
この回ではモータ制御回路を設計する上で考慮すべき外部環境を俯瞰します。
11章 モータ制御回路の概要
「モータ制御回路」について考察します。
モータ制御は多要素パーツの組合せによるシステム構成
一言にモータ制御回路といっても用途、機能、組み合わせるモータの種別、モータ軸数など様々に要求仕様が異なり、無数と言ってよいほどの組合せがあります。生物と同じく使用環境に応じて適応できねばなりません。
モータ制御はアナログ
モータは、メカトロニクス機械の動力ですからモーション制御装置として使われます。「持ち上げる」、「掴む」、「運ぶ」、「押す」など殆どが人力作業機能を模倣し機械化したもので典型的なアナログ装置といえます。よって、人の感覚に近い動きができるものが理想と言えます。
如何に工学、工業的なパーツ、構成要素の塊であっても有機生物的な機能、性能を模倣する仕様なので機能的には、典型的なアナログ制御器であることが求められます。
軽薄短小がトレンド
世の中の動きとして、何事につけできるだけ環境に優しい省エネなものが求められます。モータ制御のモノつくりの世界でも同じ要求があります。同じ機能性能のものなら、できるだけ小さくて軽いものの方が、好ましい訳です。製作材料も少なくて済むし、持ち運び、保管にも利便性が良いという感覚です。
制御器は、アナログ、デジタルミックスシグナル化が鍵
少し前までは、リアルタイム性が求められるモータ制御器を作るには、単機能のハード部品を探し、吟味して、多くの部品を組み合わせて回路を設計していました。近年、シリコン半導体の微細化技術は著しく発展し、より低電圧で、低消費電流で、超高速に動作するCMOSトランジスタ素子に改良、実用化され、僅か数mm角のシリコンチップに数千万素子が搭載できる様になりました。
現在のアナログICの中身はデジタル回路
本来、ハードウェア部品としてのトランジスタ素子は、良いアナログ性能を発揮させるには、ある程度の質量、容量を持たせることで低抵抗、低ノイズ性を確保せねばなりません。
しかし、微細化技術はその素子性能自体は低くなり、相反することになるのですが、膨大な数のトランジスタを搭載し、素子の素体性能を補完補償する回路を付加することで性能をカバーしています。
従って、ブラックボックスとして見た機能部品としては、例えば、単純な差動オペアンプだとしても、中身は、温度補償回路、オフセットトリミング回路、基準Bandgap電圧補正回路、クロスオーバー低歪回路、高Gmゲイン補償回路、レールtoレール同相入力化回路等々...昔のバイポーラトランジスタだと僅か数10素子で構成していたオペアンプが今や複数種別のCMOSトランジスタが1000素子以上も!?
それでも、バイポーラトランジスタ時代よりもシリコン面積は小さいのですから驚きです。しかも、性能もピュアなバイポーラリニアオペアンプよりもトータル性能が高い...
本来、CMOSトランジスタは、電界効果を持つスイッチング素子なので0と1の量子的な信号を扱うロジック回路を構成するのに向いています。逆にいうと、電流素子であるPNジャンクション接合構造のダイオードやバイポーラトランジスタ素子の様な、中間領域の線形特性をもたないので本来、増幅器には向いていません。
しかし、超高速動作が可能になったことと極微細サイズ化で大規模回路が作れるようになり、DSPに代表される高速高精度演算器などのシリコンコンピューティング化が実用化されました。本来ダイレクトにアナログ信号の整形処理を行っていたものをデジタルフィルタ処理で同等以上の性能がだせるようになったことが、実用化が進んだ理由です。
よって、一部の高性能アナログ性能スペックを必要とする特殊なディスクリート部品以外では、殆ど、アナログ、デジタル混載の回路構成のICになってしまいました。
高速高性能化が著しいマイコンの活用
前述したCMOS技術により、異機能の素子の殆どがシリコン基板上で実現できるようになり、デジタルICの代表選手であるCPUを基幹とするマイコンも著しく高機能化されてきました。
基本CPUですから、メモリを必要としますが、搭載するメモリの種別をとっても、RAM、MaskROM、FlashROM、EEPROMを1枚のシリコンチップ上で混載できるのですから、20世紀には想像もできなかった位の発展があります。また、微細化の恩恵で高速なCPUを複数搭載するマルチコア化も当たり前になってきています。
また、アナログ回路の混載も普通になってきており、12bit以上の高精度ADC、DACは勿論のこと、アナログ電源、オペアンプ、1A以下程度の電流容量であればドライバ回路でさえも混載できる様になりました。
今後は、シミュレーション技術とソフトウェア設計技術が鍵になる
これだけ、ハードアーキテクチャが充実してくると、昔ながら鉛筆舐めなめ手書き回路図を作成し、電子工作の実験机でディスクリート部品を揃え、半田こてを握り、皿うどんの様なケーブル配線に四苦八苦しながらオシロスコープの画面をにらめっこして、電卓を叩いて手計算で設計工程を進めていくことはできません。これからは、回路シミュレータと、ソフトウェアによるデジタル回路の構築が設計工程の主たる作業なるでしょう。
IT時代になり、AIの高性能化が著しい今、もしかしたら高度な設計作業すら、AIにとって代わられる時期にすぐそこまで来ているのかもしれません。