技術解説 バイポーラトランジスタの基本と使い方

アナログ回路設計

【始めに】
本アナログ回路設計編では、
・アナログ回路の主役部品といっても良いトランジスタ、オペアンプの基本の理解
・回路シミュレータ「SPICE」を活用しアナログ回路を設計する技法
を紹介します。
【回路シミュレータの活用】
現代の回路設計の現場では、SPICEという回路シミュレータを活用しています。この回路シミュレータを駆使し
・DC解析
・AC解析
・過渡解析(トランジェント解析)
といった回路の諸性能の解析をコンピュータ上で行い、設計した回路に誤りや問題がないかを確認し、設計完成度を高めて行きます。

※本コンテンツでは、アナログ・デバイセズ社が提供しているアナログ回路シミュレータLTspiceを使用します。

トランジスタの基本

トランジスタとは

トランジスタとは、電気の流れ(電流)を制御する部品で信号の増幅器(アンプ)や回路をオンオフするスイッチとして利用されます。トランジスタには、バイポーラ型とユニポーラ型がありますが、一般にトランジスタと呼ぶ場合、バイポーラトランジスタのことを指します。ユニポーラ型は、電界効果トランジスタ(FET)です。

ここでは、バイポーラトランジスタについて説明します。

トランジスタの基本構造

トランジスタの構造は、半導体のPN接合を利用しています。バイポーラトランジスタは正孔と電子の2つのやり取りで動作します。すなわち双極で動作するという意味でバイポーラトランジスタと呼ばれています。

下図のようにN層、P層をサンドイッチの様に挟んだ構造でP層のベースとN層のエミッタの間とP層のベースとN層のコレクタの間は、PNジャンクションでありダイオードと同じ構造です。

電極は、コレクタ、ベース、エミッタの3つがあります。

トランジスタの構造(Structure of transistor)
トランジスタの動作原理

NPNトランジスタで動作原理を説明します。

トランジスタの原理(Principle of transistor operation)
  • 1 ベース~エミッタ間に電源Vbをコレクタ~ベース間に電源Vcを接続します。
  • 2 ベース~エミッタ電源が印加されていない場合は、コレクタ~ベース間に電源が印加されていても電流は流れません。
  • 3 ベース~エミッタ電源が印加されるとベース電流(Ib)が流れコレクタ~ベース間もコレクタ電流(Ic)が流れます。

エミッタのN層ベースのP層へ電子が流れ込み、エミッタ電流となります。エミッタ電流の一部はベース電流となります。

ベースのP層の厚さは非常に薄いため、エミッタから流れ込んだ電子の大半は、ベースとコレクタの接合部に達しベースとコレクタの電位差によってコレクタ内に拡散してゆき殆どがコレクタ電流となります。

エミッタから注入される電子の数は、ベースエミッタ間電圧(VBE)によって決まります。つまり、ベース電流の増減でエミッタ電流が変化し、結果として、コレクタ電流の増減変化として現れます。

各電流の関係を式で表すと

Ie = Ic + Ib

となります。

トランジスタは、ベース電流を制御することでコレクタ電流の制御が出来る素子です。

ベース電流はわずかでも大きなコレクタ電流が流れます。このIbに対するIcの変化する割合を電流増幅率と呼び、hfeと言う記号で表現しています。

hfe = Ic / Ib

仮にエミッタ電流が100だとするとベース電流は、1とわずかですが、残りの99はコレクタ電流になります。この時、電流増幅率hfe = 99 ということになります。

トランジスタの使い方

トランジスタの使い方は、3つの電極端子のいずれを入力、出力端子として使うかによって大まかに3種類あり、使用目的によって使い分けます。

入出力ともに共通に使うコモンをいずれの電極にするかによって変わり、以下の3種類になります。
・エミッタ接地:エミッタを共通端子とし、ベース、コレクタを入出力端子とする使い方
・ベース接地:ベースを共通端子とし、エミッタ、コレクタを入出力端子とする使い方
・コレクタ接地:コレクタを共通端子とし、ベース、エミッタを入出力端子とする使い方
各接地方式の使い分け
【エミッタ接地】

エミッタを接地基準とし、ベースを入力、コレクタを出力とする構成。

トランジスタの標準的な使い方です。集積回路(IC)の場合、大半の回路がエミッタ接地です。

エミッタ接地(Emitter grounding)
エミッタ接地の特長
・増幅度が大きい
・出力の位相が反転する
・高周波領域で増幅度が低下する
【ベース接地】

ベースを接地基準とし、エミッタを入力、コレクタを出力とする構成。

エミッタ電流を増減させるように動作します。電圧増幅度が高く、高周波回路に使われます。

ベース接地(Base grounding)
ベース接地の特長
・高周波特性がよい
・電流増幅率はほぼ1
・入力インピーダンスが低い
・出力インピーダンスが高く増幅度が大きい
【コレクタ接地】

コレクタを接地基準とし、ベースを入力、エミッタを出力とする構成。一般にエミッタフォロワ(エミフォロ)と呼ばれます。

入力インピーダンスが高く、出力インピーダンスが低いのでバッファ回路(インピーダンス変換回路)に使われます。

コレクタ接地(collector grounding)
コレクタ接地の特長
・電圧増幅度は1
・入力インピーダンスが高い
・出力インピーダンスが低い