技術解説 ブラシレスモータのセンサレス駆動技術

モータの制御

ブラシレスモータのセンサレス駆動技術

今回は小型化、高信頼化、低コスト化を可能にするセンサーによらないローター回転位置の検出方法について説明します。

16章 ブラシレスモータのセンサレス駆動技術

ブラシレスモータのセンサレス駆動技術

ブラシレスモータをより小型、高信頼性、低コストを追求してゆくには、どうしてもセンサを使用しない(センサレスモータ)は避けて通れません。本章では、センサレス制御を紹介したいと思います。

実際にセンサレスモータは、エアコン用モータ、ハードディスクやハイブリッドカーやドローンなどに使用される様になり、普及が加速しています。今後も様々な用途に広く使用されてきており、センサレス制御技術の需要、重要度は一層増えています。

センサレスの特長:誘起電圧によるロータ位置検出

ホールセンサの様なロータ位置検出センサを使用しないため、センサの代わりに各相コイルの誘起電圧検出を行いロータ位置を推定する方法をとります。これをセンサレス制御と呼んでいます。

センサレス駆動回路(Sensorless motor drive circuit)

センサレス制御では、ロータが回転しコイル相の切替時に発生する誘起電圧を検出することでホールモータ同様にロータ位置を知る方法です。

回路的には、モータ出力電圧から誘起電圧を比較検出するコンパレータと位置推定処理(マイコン等の演算器)回路が必要になります。よって、ホールモータに比べ回路構成がより複雑になります。

逆起電圧の発生原理

3相ブラシレスモータのスター状のコイル結線では、常に3つのコイル全てに電流を流すことは無く、下図の様に通電駆動していないコイル相が必ず存在します。

逆起電圧発生のしくみ(brushless motor BEMF)

モータは回転すると、必ず逆起電力(BEMF)が発生します。通電していないコイル相でこの逆起電圧が観測することができます。

U、V、W相の各コイルの内オフになっている相が必ず1組存在するので、通電していない相のモータ端子電圧が印加電源電圧の中点電位(1/2)になる箇所(ゼロクロス点)を検出することでロータの位置が得られます。ホールセンサ同様に電気角60度毎に特定できる仕組みです。

通電セクタパターンは、ホールモータと同じく「6ステップ区間の繰り返し」で位相が進みます。

センサレスモータコのコイル電流とホ誘起電圧検出係イメージ(Motor coil current and induct voltage)

この方法の欠点は、モータ停止(もしくは極低速)状態では逆起電力が発生しない(限りなく微弱)のでロータ位置検出ができないことです。

センサレス制御のメリットとデメリットのまとめ

●メリット:

①小型化できる
ロータ位置検出用のセンサを使用しないので取り付けスペースが不要になり小型軽量化が容易になります。
②モータ組立加工、調整の省力
ロータ位置センサを取り付けるには、ロータ磁石位置とセンサの相対位置関係を正確に合わせる必要があり、かなりの手間と時間が掛かります。センサレスにすればこの作業は必要ありませんのでモータの組立/調整工程が大幅に少なくなります。
③信頼性の向上
ロータ位置検出に用いる磁気センサの特性は、温度環境で大きく変動します。従って、高温度の環境下では使用できない制限もあります。センサレスモータでは、この温度環境制限範囲は大幅に広がります。また、ケーブルハーネス等含めた使用部品点数も少なくなるため、モータトータルの寿命/信頼性が高くなります。

●デメリット:

①低速運転が苦手
センサレス制御では、一般的にモータ最高速度の10%程度が下限といわれます。センサレス制御は、ロータ位置検出を仮想的にモータコイルの電気位相の切り替わりで発生する逆起電圧を検出することで行っています。従って、原理的に極低速度での運転は困難です。一般的にモータ最高速度の10%程度が下限です。
②応答性が悪い
センサモータに比べ、制御ループ系の中で位置、速度の推定処理が必要なため変化応答性は、どうしてもセンサモータよりも劣ります。
③モータ個体ばらつきが直に性能に影響する
センサレス制御では、センサの代わりにモータコイル電流、電圧、コイル定数(L,R)などのモータパラメータ値を用いて、位置や速度を推定演算しますので、モータの個体差は顕著に出ます。更にコイル巻線抵抗値は、温度変動量も大きいため温度変動範囲も考慮して制御系を設計する必要があります。
センサレス制御の始動性を改善する運転テクニック

センサレスモータは、ロータ位置検出センサを用いないため始動時には、誘起電圧は発生していないためロータ位置が把握できません。従って、少し特殊なやり方で始動させます。下記に具体的な始動運転方法の流れを示します。

①始動時、極短い時間、直流通電でモータコイルに電流を流してロータ位置を固定します。
(オープンループ制御での直流通電)
②次に強制的にコイル位相を変化させてモータを回します。
(オープンループ制御での位相シフト(強制転流))
③モータが回り始めると、コイル誘起電圧を検出(ロータ位置捕捉)し
クローズループ制御となりホールモータ同様な運転制御に入れます。

ここで用いている特殊な始動条件下記2項目は、モータに大きく依存するのでセンサレス制御で最も難しい工程です。実モータによる入念な実験合わせこみが必要です。

●直流通電(直流励磁)時間

●強制転流周波数

うまく1回の始動シーケンスでモータが上手く起動できない場合が多く始動条件を変えて再起動する仕組みを、コントローラで設けることも必要になります。

通電位相角の違い

ホールモータの章で述べた様に3相ブラシレスモータの位相通電方法としては、ホールモータ同様にセンサレス制御でも同じです。

●120度位相差による矩形波通電

●180度位相差による正弦波通電法があります。

高性能制御化にはモータコイル電流検出/制御も重要モータを精度良く、効率良く制御するには、モータコイル電流を計測しサーボ制御系にフィードバックする必要があります。この点もホールモータと同様センサレス制御でも重要な技術です。

①より高性能な制御を行うため
負荷変動などの外乱要因の過渡現象に対し安定して応答性良く、高効率で運転するには、精度の良い電流計測によるトルク制御が必要です。
②過負荷保護機能のため
過負荷による過大電流などによる故障保護の目的です。

電流検出方法もホールモータの章で説明したシャント抵抗回路を用いて各相コイルの電流を検出し制御器にフィードバックする方法を取ります。

各3相コイルの電流を各々を検出する3シャント方式

3シャント電流検出回路(3Shunt current detection circuit)

各3相コイルの電流を束ねて検出する1シャント方式

1シャント電流検出回路(1Shunt current detection circuit)
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